ペットと人のハッピーライフを 出会いからエンディングまで
獣医師・ 動物医療 グリーフ ケア アドバイサー
阿部美奈子先生の合同会社Always

  

 

良い看取りと命のバトンタッチ(2)

愛するペットとの別れを体験し、現在新しくペットを迎えたご家族からいただいたメッセージをご紹介します。


秦野市 Nさん

愛猫こずえちゃんは9歳。
慢性腎不全だとわかった時から病院での皮下点滴を受ける日々となりました。

 こずえちゃんは小柄ながら気丈な猫ちゃんで点滴を受ける姿にも気高さがありました。Nさんはこずえちゃんの食欲を気遣い「お刺身はアジにしようかな」「パンが好きよね」と食欲が落ちてくるこずえちゃんが少しでも好んで食べてくれるようにと考えていらっしゃいました。
 長い闘病生活の中でこずえちゃんにとって食事は喜びの時間となったでしょう。最期が近づいてきている頃には、食べ物探しもかなり難しくなっていましたが、「バームクーヘン」を細くしたら食べてくれるのだとうれしそうに教えて下さいました。その愛情あってこずえちゃんは驚くほどの生命力で生き抜いてくれました。

お別れを想像しては何度も涙を流され奇跡を信じたNさんでしたが、こずえちゃんが持ってるエネルギー全てを使い果たすまでまっすぐに生き抜く姿にどんなにか勇気つけられたことでしょう。最期はNさんの胸の中で安心したように旅立ちました。
 こずえちゃんはNさんがお仕事に出かける直前にけいれんが始まったそうです。Nさんはおっしゃいました。
「家を出る前で良かった。本当にこずちゃんの最期に家に居られて良かった。こずちゃんが良いタイミングで逝ってくれたのかな。自分の胸の中で看取ることができて本当に良かった。悲しいけれど幸せな看取りになりました。」
 2年近くに及ぶ通院生活はこずえちゃんとの絆をより強く結ぶ時間となったのだと感じます。それだけにこずえちゃんとのお別れを現実としてすぐに受け入れることは難しいのです。
 最初はこずえちゃんのいない風景には違和感があるでしょう。でも毎日、少しずつそのような風景に慣れていくことで現実を受け入れていきます。そしてこずえちゃんと出会い暮らした日々の幸せ感が戻ってくるに違いありません。それまでは気が済むまでお別れを悲しみましょう。


秦野市 Sさん

愛犬パセリちゃんはゴールデンレトリバーの11歳。
小さいころから手のかからない女の子。

生前のパセリちゃん

外出した帰り道、家に近づくと窓越しにSさんを待つパセリの姿がありました。
 ご主人が仕事からお帰りになるのを待つのもいつもパセリと一緒。お家に訪れるたくさんの人々に愛されたパセリ。パセリはSさん夫妻にとって子供のような存在でした。
 ターミナル期での通院はパセリに負担になるのでと自宅療養に切り替えられほとんどの時間をパセリと寄り添われた日々。起き上がることも難しくなった状況でも私たちが伺うとママとの「ハイタッチ」を横になったまま得意気に見せてくれたパセリ。何度も危機を乗り越え奇跡的な生還を果たしてきたパセリ。そのたびに覚悟をしてきたSさん。Sさんはパセリに温かいお声でおっしゃいました。
 「パーちゃん、パーちゃんの好きなだけ生きていいからね。ママはずっとそばにいるからね。」今、リビングに横たわるパセリも窓越しに待つパセリの姿もない現実を受け入れていくことの苦しさと向き合っていらっしゃるSさん。パセリの存在がどれほど大きかったかを改めて感じる時間でもあります。

生前のパセリちゃん

*お手紙をご紹介します。
 元気いっぱいだったパセリに5月腫瘍が見つかりみかん病院で大手術。奇跡の生還。でも7月、再び腹部内出血。何度も、持ちこたえて・・家族に、見守られながら、8月22日天国に。
 6月からの3ヶ月間は、夢の様でもあり、また、パセリが私に人生の勉強をさせてくれました時間でした。パセリはいい子で偉い!・・・そう想っていると、ますますパセリが愛おしく、涙が止まらなくなります。主人はもう少ししたら、サビちゃん(我が家に来る予定のワン子の名前)が、来るじゃん!と、励ましてくれます。パセリみたいに、良い子に育てられるかどうか?ちょっと心配ですが、皆様に助けて戴いて育てたいと、思っております。
 私は、阿部先生にめぐり逢えたことを、本当に嬉しく想います。きっと、パセリが引きあわせてくれたのでしょう。先生に、どれほど救われたことか!感謝、感謝でいっぱいです。また、ご連絡させて戴きます。パソコンが苦手なので、お便りします。
〜追伸〜
 サビちゃんと言うのは、パセリがいた時、もう一匹ワン子を飼ったら、名前を「わさび」にして、サビちゃんって呼ぼうと決めていた呼び方です。

Sさんのお家には来月中旬ころ新しい家族がやってくる予定です。

秦野市Yさん

ミニチュアダックスのベルちゃんは5歳。
初めてのワンちゃんでご夫妻にとって我が子の存在。


生前のベルちゃん

 そのベルちゃんをいつも通りワクチン接種のため5月に連れて行った病院での思いもよらない病気の発見。健康チェックで肝数値の上昇と脾臓に腫瘍があることが判明。その後脾臓摘出手術実施により病変が脾臓のみに留まらず周囲への広がりを確認。
 かなり治療がむずかしいことを告知され悪夢を見ているような時間が過ぎる中、食欲もなくなり少し食べても吐きや下痢になってしまうような状況。初めてお会いしたYさんからがんばらなければ・・と必死なご様子が痛いほど伝わってきました。
 「もうどうしたら良いかわからない。苦しい顔ばかりでつらそうでかわいそうで・・」
 仕事も行かなくてはならないため家にベルちゃんを置いて出かけることの不安や、いつどのように迎えるかわからないベルちゃんの死を想像し悲しみ、不安や恐怖に襲われる日々。
 治る見込みもない状況下で弱っていく愛する命に向き合うターミナル期は本当につらく苦しい時間です。生活全体が悲しみに包まれていたYさんにベルちゃんと暮らした生活がどんなに癒しの多い素晴らしいものだったのかを振り返っていただきました。
 そして残されたベルちゃんとの時間をどのように過ごしていけるかを一緒に考えました。ベルちゃんが日頃、大好きだったことは? 喜ぶ方法は? 好きな食べ物は? ベルちゃんが心地よく過ごせるように自分たちに出来ることは?ベルちゃんに愛情を伝えるには?・・・etc

ターミナル期という最後のステージ。愛する子に苦しい中でもより多くの喜びや安心を与えることを目標にしませんか。どうしても毎日が緊張に包まれ表情も硬くなってしまうターミナル期。優しい声で名前を呼びいっぱい笑顔を見せて安心させてあげることはベルちゃんにとって大きな喜び、そして救いになること、パパとママと一緒に過ごす時間をできるだけ多く持たれることも今できる大切なこと、ご自分たちに合った幸せの作り方に着目してみることなどお話しました。
 最初大きく動揺の見られたYさんも次第に表情が落ち着かれ、少しすっきりとした表情でおっしゃいました。
「ずっとどうしていいか混乱し折れそうだったのですが、良い看取りに向けて夫とがんばってみます。」「良い看取りを考えてみます。」

新しい家族レオンとティアラ

7月16日夕方ご自宅でご主人の腕の中、静かに逝ったベルちゃん。とても安らかな表情だったとお聞きしています。
そして現在新しくベルちゃんと同じミニチュアダックスの男の子と女の子と出会い家族になりました。ベルちゃんのお話を聞かせながら2匹の子育てがんばっていらっしゃいます。
*お手紙をご紹介します。
 始めて飼ったベルが癌になり、どうしていいか分からない時、みかん動物病院のスタッフの方や美奈子先生に出会い悔いのない看取りが出来たと思います。ベルが逝ってしまった事は悲しいですが、ベルが色々な経験や出会いを私たちにくれた事を大切に思い、次の子にその思いを引き継ぎたいと思いました。今はベルと同じ犬種のカニンヘン・ダックスの女の子と男の子を飼い始めました。名前はティアラとレオンです。
 まだまだ小さいのでしつけが出来ず、毎日怒ったり、笑ったり毎日が賑やかです。これから色々な事があるかと思いますが、ティアラ・レオンとたくさんの思い出を作りたいと思います。
 それではまた、みかん動物病院でお会いできたらいいですね!

秦野市在住 Oさん

愛犬トラ吉君は柴mixの14歳。


 Oさんは長い介護生活の中でどこまで積極的に治療を受けていくのが良いのか、トラ吉君にとって苦しみになるのではないか、迷い、悩み苦しまれることも多かったと思います。前立腺のトラブルや副腎機能の亢進、糖尿病も患う状況下、昼夜が一転し夜泣きが始まった時には精神的に追い込まれ疲れきったご様子で来院されたOさん。
 面談を進める中で、「トラ吉は我が子のような存在だから・・」とトラ吉の介護に専念するため看取りまでの数か月はお仕事を制限して向き合うことを選ばれました。
「やっぱりトラは一番落ち着く家での看取りにしたい。」「治らない病気だとわかっています。だからこそたくさんの薬を飲ませるより苦しみや痛みを取ることを中心に考えた治療をしたい。」それからのOさんは以前よりお顔の表情も明るくなられ、トラ吉君に合わせてお昼寝をしたりエネルギーを蓄えながら「自宅での看取り」を目指しました。
 足腰が弱り自分で身体を支えられなくなったトラ吉君のしっぽを上手に持ちゆっくり散歩。寝たきりになってもトラ吉君が痛くないようにと工夫されたベッドで身体の向きを適度に変えてもらいながら最期まで床ずれもなかったトラ吉君。
 最期を迎える直前まで食べることを楽しめたトラ吉君は、Oさんの見守る中で安らかに静かに逝きました。Oさんは「最期は苦しまず予想していたよりあっけなく逝ってしまって驚きでした。」「毎日トラ吉に向き合い覚悟ができてきたように感じます。悲しいけれど良い看取りができました。」と満足された表情を見せてくださいました。